ボルドー (Bordeaux)

立地/気候 (Location/Climate)

ボルドーはフランスの南西地方にあるジロンド県に位置しており、ビスケー湾(フランス西岸とスペイン北岸との間の湾)に近い地域です。ボルドーのワイン地域はジロンド川とそれに流れ込むドルドーニュ川、ガロンヌ川に沿って存在しています。きわめて平坦なボルドーのブドウ畑は標高数メートルでしかありません。その全体は左岸又は右岸に分かれ、ジロンド川の西部(左岸)はメドック、グラーブ地区であり、東部(右岸)はサンテミリオン、ポムロール地区に分けられます。中でも左岸のオー・メドック地区には最上の世界的にも名声のあるサンテステフ、ポイヤック、サンジュリアン、マルゴー村があります。南部には世界でも最も有名な甘口ワインのソーテルヌ地区があり偉大なワインを生産しています。ボルドーの殆どのブドウ畑は、北緯44.35~45.30度に位置しており、南北105km、東西130kmに及びます。

ボルドーのブドウ畑は大西洋が近いためその影響をかなり受けており、ここは“メキシコ湾流”(ガルフストリーム)の影響によって温暖化されています。全体的に海洋性気候であり、冬の寒波と春霜からブドウの樹を守ってくれる温かい気候です。また南部にある巨大なランドの森*(松林)がブドウの栽培地を大西洋から吹き込んでくる強風から保護してくれるのです。年間の日照量は2,000時間以上、平均年間降雨量は950mmです。湿度は高く、これは海に近いということだけでなく、ドルドーニュ川とガロンヌ川の影響もかなり受けており、特にガロンヌ川はソーテルヌ地区とバルサック地区では貴腐菌の繁殖を容易にしてくれます。
*ランドの森 - アキテーヌ地域圏、ジロンド県とランド県、ロット・エ・ガロンヌ県の一部にまたがるヨーロッパ最大の海岸に面した松林。

 

歴史 (History)

ボルドーのワイン造りの発展はローマ時代まで遡ります。ローマ時代にはボルドーはBurdigala(ブルディガラ)と呼ばれ 国際的な名声を誇る大学都市でもありました。文化的な多様性を持つ地方である傍ら、ブドウ畑が多く存在し、そのワ インは特に評判の高いものでした。

ボルドー生まれの詩人Ausonius(アウソニウス-AD310~393/4年)は、その当時のワイ ン栽培について触れた初めての人物でなかったにしても、彼はボルドーで初めて知られたワイン栽培者でした。彼の詩 “De herediolo” (小さな遺産‐379年)の中には彼が約0.25haのブドウの樹を栽培していたことが著されており、それが現在のシャトー・オーゾンヌに由来します。しかし、その後のボルドーワインに関してどのように生き残ってき たかを説明する資料など残念ながらほとんど残っておらずよくわかっていません。11世紀になるとヨーロッパでは経済が発展し、それに伴ないワインの需要も伸び始めました。まず12世紀にボルドー北部、大西洋岸にあるLa Rochelleという新しい港によって財を築き、それに従いボルドーも貿易、生産などが共に発展し ていきました。その当時、ボルドーワインは赤でも白でもなく黒ブドウ品種と白ブドウ品種を混ぜ合わせ一緒に醗酵さ せて造られた”Clairet” と呼ばれるワインで、現在のClaret(クラレット)の起源になります。

12世紀にはボルドーの名声は英国との深い関わりにより築かれました。1152年アキテーヌ公領の相続人アリエノール・ ダキテーヌ王妃(Alienor d’Aquitaine-1122~1204年)が、後の英国王、ヘンリー二世 (Henry Plantagenet)と結婚したこ とにより、アリエノールの領地であったガスコーニュ地方と西フランスのほとんどを獲得しました。(中世の頃のガスコ ーニュ地方はボルドーの一部として考えられていました)それに従い、ボルドーは1453年まで約300年間、英国に支配されていました。これによりワインに関して最も重要だったのは、ボルドーから輸出されるすべてのワインは税を免除さ れるということでした。ガスコーニュのワイン商たちはロンドンで優位な立場となり、英国では他のどこから輸入される ワインよりも一番安くで入手できるワインとなったのでした。

返還後、英国との貿易は継続されますが、その後、オランダとのワイン貿易が次第に支配的になっていきました。国際的 なワインとスピリッツの貿易の歴史においてオランダは17世紀の中頃までに最も影響を及ぼした国です。

そして17世紀にメドック地区の湿地/沼地帯を排水する専門技術を持ち込んだのはオランダ人でそれにより世界中にボ ルドーの上質赤ワインとして認識されるワイン造りをメドック地区で可能にしました。それまでは水捌けのよいグラー ブ地区が一番とされ、栽培の中心地はその中でも特にシャトー・オー・ブリオンが最上とされていました。今日、メド ック地区を代表するシャトー・ラフィット・ロスチャイルド、シャトー・ラトゥール、シャトー・ムートン・ロスチャイ ルド、シャトー・マルゴーは17世紀の後半から栽培が始められたとされています。

 

栽培            (Viticulture)

ボルドーではシングル・ギュイヨとダブル・ギュイヨ型整枝法が主に採用されています。シングル・ギュイヨ型整枝法はよりサンテミリオン地区側でみられ、ダブル・ギュイヨ型整枝法はよりメドック地区側で使用されています。
典型的なメドック地区のブドウ畑では主にカベルネ・ソーヴィニョン種の栽培が中心で、続いてメルロー種、カベルネ・フラン種、プティ・ヴェルド種が栽培されており、逆にサンテミリオンやポムロール地区では、主にメルロー種、続いて、カベルネ・フラン種が栽培されています。
収穫は9月下旬から10月上旬ぐらいから始まり、通常、辛口白ワイン用から始まり、赤ワイン用はサンテミリオン地区、続いてグラーブ地区、そしてメドック地区といった順が一般的です。

 

ブドウ品種 (Grape Varieties)

ボルドーワインの味を決定づけるブレンドは最重要です。フランスの他の名声あるブルゴーニュワインと比較するとブルゴーニュの赤ワインはピノ・ノワール種から単一ブドウ品種のみで造られるのに対して、ボルドーの赤ワインは様々なブドウ品種をブレンドして造られています。これには2つの主な理由があり、1つは特にカベルネ・ソーヴィニョン種とメルロー種の特性の兼ね合い、つまりお互いの特性を補足し合うことと、2つ目は、異なる品種を栽培することでそれぞれ異なる発芽・開花・熟成期の天候による悪影響や後に起こりうる病害に対しての保護手段になるからです。
ボルドーでは14のブドウ品種が認められていますが、実際は5つの黒ブドウ品種、3つの白ブドウ品種が殆どで、それらはカベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、カベルネ・フラン、マルベック、プティ・ヴェルドなどの黒ブドウ品種と、セミヨン、ソーヴィニョン・ブラン、ミュスカデルの白ブドウ品種です。(その他の品種は、カルムネール、ユニブラン、コロンバール、メルローブラン、モーザック、オンダンク)

 

カベルネ・ソーヴィニョン(プティ・カベルネ)(Cabernet Sauvignon)

カベルネ・ソーヴィニョンはボルドーのクラシックなブドウ品種として評価されており、優良なメドック地区のワインにはカベルネ・ソーヴィニョンの比率が約4分の3を占めています。適度の収量があり、良質でタンニン分が多く、特徴としてカシスのアロマを持っています。果実は小さく、果肉に対して種子の割合が高く果皮の厚い品種です。その種子が主な要因となりカベルネ・ソーヴィニョンが持つ高いタンニン分をつくり、またその厚い果皮によって濃い色調を造り出しています。
晩熟のカベルネ・ソーヴィニョンは温暖な気候でメドックやグラーブ地区などのような排水のよい砂利質土壌に向いています。カベルネ・ソーヴィニョンは長期マセラシオン(浸漬)により濃い色調のワインを造ることが可能で、長期熟成にも向いています。
この品種は、カリフォルニア大学のデイヴィス校でDNA鑑定により、カベルネ・フランとソーヴィニョン・ブランの自然交配によって誕生した品種であるということが1997年に証明されました。

 

カベルネ・フラン(ブーシェ) (Cabernet Franc)

カベルネ・フランは主にサンテミリオンとポムロール地区で栽培されており、メドックやグラーブ地区ではそれほどみられません。カベルネ・ソーヴィニョンより収量は高いのですが、最終的なワインはカベルネ・ソーヴィニョンに比べて青みがあり、ボディとフィネスにかけるように思われます。土壌はカベルネ・ソーヴィニョンと同じく砂利/質土壌を好みます。特に内陸の涼しい気候を好み、カベルネ・ソーヴィニョンと比較すると約一週間、発芽・熟成が早くなります。カベルネ・フランはライト~ミディアムボディで、カベルネ・ソーヴィニョンと比較すると、より果実香味があり、ハーブ系のアロマを持ち合わせています。

 

メルロー (セミヨン・ノワール) (Merlot)

収量は中程度でフルボディのワインを造り、程よいタンニン分があります。カベルネ・ソーヴィニョンと比較すると熟成は早くなります。メルローはサンテミリオンとポムロール地区でより重要なブドウ品種で、冷たい粘土質の土壌を好みます。なぜなら、メルローはあまり排水のよすぎる土壌だと乾燥した夏には果実が完熟することができません。
メルローはブレンドにより、厳格なカベルネ・ソーヴィニョンに対して丸みのあるふくよかで豊富な果実香味を与え、均整をとっています。特徴としてプラムのアロマがあります。
メルローはカベルネ・ソーヴィニョンより少なくとも一週間は早く発芽・開花・熟成するため天候不良などによる保護手段にもなっています。

 

マルベック (コット) (Malbec)

マルベックはブールやブライ地区などで早のみの赤ワイン用に使用され、又補助品種として使用されています。南西地方のカオール地区では重要品種です。

 

プティ・ヴェルド  (Petit Verdot)

プティ・ヴェルドはボルドーのクラシックな黒ブドウ品種のひとつで、今では広範囲には栽培されていませんが、品質を重視する一部のブドウ畑では僅かながら復活しています。この品種はカベルネ・ソーヴィニョンより晩熟で腐敗に対する抵抗力はカベルネ・ソーヴィニョンと同等のものがあります。またカベルネ・ソーヴィニョンのように果皮が厚く、完熟したときには凝縮したタンニンの強い、格別にスパーシーで濃い色調を帯びたワインとなります。

 

セミヨン (Sémillon)

セミヨンはボルドーでは最も広範囲に栽培されている白ブドウ品種で栽培しやすい品種です。黄金色でしっかりとしたボディを持ち果皮は薄く貴腐菌の影響を受けやすい品種です。それは特に甘口ワイン造りに使用されています。 
伝統的にソーヴィニョン・ブランとブレンドされ、この黄金色(完熟したブドウは殆どピンク色にみえる)の品種は、ソーテルヌを含むボルドーの偉大な白ワインの原料であり、世界でも最も長命な非酒精強化ワインとしてグラーブまたはぺサック・レオニャン地区で最高傑作を造っています。そこではリッチで黄金色の蜂蜜の香味がする粘着性のあるワインに仕立てられており、他地区のセミヨンでは決して真似できないでしょう。低収量、古い樹、オーク樽による熟成とそれにソーヴィニョン・ブランがそれぞれの担当分野で役割を果たしています。
ソーテルヌ地区におけるセミヨンの偉大な特質は、その貴腐が起こりやすいことです。特別なボトリティス・シネレアという糸状菌は糖分と酸を劇的に凝縮させ、収量も圧縮し、従ってできた最良質のワインは何世紀にも渡って質の向上を続けます。

 

ソーヴィニョン・ブラン (Sauvignon Blanc)

ボルドーのソーヴィニョン・ブランは主にアントル・ドゥ・メール、グラーブ、そして甘口ワインの産地であるソーテルヌ地区とその周辺に集中して栽培されています。それぞれのエリアで通常セミヨンとブレンドされています。
ソーヴィニョン・ブランのはっきりとした特徴は瞬間に識別できる香りにあり、よく「青草、ハーブ、麝香、緑色の果実(特にグーズベリー,そしてtomecats*:雄猫のような」とも表現されます。科学者によるとこの品種の香りの成分はメトキシピラジン**に起因すると言います。

* tomecatsトムキャット:ある種の白ワインを想起させる不思議な魅力ある香り。ソーヴィニョン・ブランの酸の勝ったアロマをcat’s piss(猫のおしっこ)と表現することもあります。
** メトキシピラジン:エーテルに属する揮発性の芳香物質

 

ミュスカデル  (Muscadelle)

セミヨンやソーヴィニョン・ブランに次いで、ボルドーとベルジュラックの甘口ワインを造る有名な第3の白ブドウ品種です。ミュスカデルはボルドーよりベルジュラックの方がより重要で、いくつかの優れたモンバジャックの原料として加えられています。 
ミュスカデルはほのかにブドウの果実本来のアロマがあり特有の香り/味があります。若い果実香味を与えるために単体ではなく、よくブレンドに使用されています。
ボルドーで栽培されているミュスカデルは、優れた甘口ワインの産地であるソーテルヌ地区ではそれほど栽培されておらず、アントル・ドゥ・メールやカディヤック、ルーピヤック、サン・クロア・デュモンなどで多く栽培されています。

 

1855年の格付け制度 (Classification of 1855)

世界で最も有名なワインの格付け制度は、1855年に行われ、メドック地区と一部のグラーブ地区のワインに対してなされ ました。それは、ナポレオン三世により1855年のパリ万博博覧会に際し、ボルドー市商工会議所は地元の最良ワイン に対して公式リストを作成するように要請されました。彼らはこの使命をワイン仲介人組合に命じ、赤ワインはメドッ ク地区と例外的にグラーブ地区の有名且つ歴史あるシャトー・オーブリオンに、そしてまたソーテルヌとバルサック地区の白ワインに対しての格付けが誕生しました。その格付けの基となったのは市場で取引されているさまざまなワインの 価格でした。それゆえにシャトー・ラフィットは“格付け一級の中の一級”と称され、なぜならシャトー・ラトゥール、 シャトー・マルゴー、シャトー・オーブリオン以上にその当時、高値で取引されていたのです。 
時が経つにつれシャトーの合併やまた分裂が起こり、その数と規模には大きな変化が起こりましたがその1855年の格付 けは今でもなお有効なのです。クリュ・クラッセ(Cru classes)に認定されているシャトーは61あり、5等級に分け られています。これまでその格付けに変化があったのはただ一度だけで、1973年にシャトー・ムートン・ロスチャイ ルドが格付け二級から一級に昇格しました。

私個人的にはこの格付け制度はあくまでも指標であると考えます。格付けに入っていない素晴らしいワインの存在、格 付け当時と現代のワインに対する嗜好の変化。1855年の格付け、これは今後のボルドーワインに対する大きなテーマだと 考えます。