シャンパーニュ (Champagne)

立地/気候 (Location/Climate)

シャンパーニュ地方はフランスのブドウ栽培地域の最北であり、北緯49~50度でパリの北東に位置しています。伝統製法により造られた発泡性ワインの生産で有名な産地で、その“シャンパーニュ”とは、シャンパーニュ地方で造られた発泡性ワインにのみ使用が許可されておりこれは1927年にINAOによって厳しく定義されました。シャンパーニュの栽培面積は34,500haに及び、5県(マルヌ、エーヌ、オー・マルヌ、オーブセーヌ・エ・マルヌ)の301村から造られており、主にその75%はマルヌ県で栽培されています。主な5つの地区はモンターニュ・ド・ランス、コート・デ・ブラン、ヴァレ・ド・ラ・マルヌ、オーブ、コート・デ・セザンヌ地区で17村がグラン・クリュ、44村(2011年2月現在)がプルミエ・クリュとして格付けされており、それらはすべてマルヌ県に位置います。

(主にブドウ売買の為に定められたシャンパ-ニュ地方における各村に対する格付け制度。これは2003年に廃止され、現在は自由に買い手と売り手の間で交渉しブドウの価格は定められておりますが

伝統的に習慣に基づき現在でもグラン・クリュ、プルミエ・クリュの意識は根強く残っております。)

シャンパーニュ地方は大西洋の影響を多少うける大陸性気候です。 年間平均気温は10℃でこれはブドウが成熟できる最低の温度です。厳しい冬と春霜がここでの最大の問題点です。そのため簡易ストーブのようなものを畑の畝にずらりと並べて火を焚いたり、散水して、芽を凍らせてしまうという逆手の保護策も行われています。

シャンパーニュ地方のテロワールで最も重要なのは特有の土壌と気候です。緯度が北に位置していることと、大西洋の影響によってこの冷涼な気候が形成され、シャンパーニュの生産に不可欠な高い酸のあるブドウ造りを可能にさせ、最高のシャンパーニュを生産しています。

 

歴史 (History)

シャンパーニュは17世紀の終わりまでは非発砲性ワインでした。それらは軽く、ピンク色の非発砲性ワインでピノ・ノワール種から造られていました。9世紀には南部モンターニュ・ド・ランス村のワインは ”Vin de Reims”、マルヌ村のワインは “Vin de la Riviere”(川のワイン)と呼ばれていました。

非常に興味深いのは、発泡性ワインの発明は英国であると考えられていることです。第一の理由は、発泡性の気圧に耐えられるだけのボトルがなかったことと、それに耐えられるだけの効果的な栓もなかったからです。フランスのガラス(ボトル)とコルク留めはかなり弱く、コルクではなく油を染み込ませた麻布をその代わりに使用していたため、その発泡をうまく保つことができませんでした。 1685年頃まで効果的な栓がフランスにはなかったのに対し、英国ではフランスがコルクを使用し始める約130年以上も前にそれを使用し始めていたことが、英国の文学者により証明されています。

シェイクスピアの時代(1564~1616)になるとワインは樽で英国へ送られていました。そして16世紀後半以降、英国でボトル詰めされていました。これは17世紀後半まではフランスでは行われておらず、理由としてあげられるのは、フランスのボトルは木炭で焼かれたとても弱いものであり、栓もよいものがなかったのに対し、英国のガラスはフランスと比べてより強力なものになっていました。 なぜなら英国のガラスは石炭で焼かれ木炭に比べるとより高温で熱することができたのです。また色付きガラスを製造しようとした際に、鉄とマンガンを添加したことにより、偶然にもより強力なガラスが造られたのでした。これはAdmiral Sir Robert Mansell(海軍将官)が行ったもので、彼は退職後、新しいガラス業の会社を興し、1623年にはすべての石炭で製造された製品に対して特許権を取得しました。英国のワイン商らは1630年代前半からそれを使用し始め、それはフランスで商業用にそれらが生産される一世紀も前のことです。そのグラスはフランスで “Verre Anglais” (イギリスのガラス)と呼ばれていました。

その頃のシャンパーニュ地方ではワインは通常、厳しい冬の寒さで醗酵が停止してしまい、春になるとまた再醗酵が始まっていました。その結果、ワインは二酸化炭素が発生し、ボトルが割れてしまい、かなりのやっかいもので長い間“欠陥”と見なされていました。また英国ではボトル詰めされたワインを温かい酒場で保管している間にそこでワインが再醗酵を始め発泡性のワインが偶然にもできたのでした。 “Methode Champenois” (シャンパーニュ製法)について基本的な要素を説明した資料/記録がロンドンのRoyal Societyで見つかっています。それは1662年12月17日からそこに保管されているもので、その内容の一部には“最近、すっきりとした発泡性のワインを造るために我々の酒場では大量の砂糖と糖液(サトウキビからとれる黒く濃い汁)を使用している”と書かれています。これはドン・ペリニョン(1638年~1715年、ベネディクト派の僧院でHautvillers大修道院の酒庫係)がHautvillersに足を踏み入れる6年前に英国で発泡性のワインが発明されていたということになります。

ドン・ペリニョンは伝統的なシャンパンの“ブレンド”技術を発明した人物であり、それは異なるブドウ畑のものをブレンドして造るというものでした。また収量をおさえるためのブドウの樹の仕立て方、酸を保つため気温がまだ低い朝のうちに収穫を行うこと、黒ブドウ品種から白ワインを造ることなど多くの技術を紹介しました。彼はどちらかといえば、どのようにすれば泡の発生を抑えることができるのか、ということに最も時間を費やした人物です。1724年には修道院の一人であったFrere Pierneのドン・ペリニョンの業績の中のリストには、彼は “Verre Anglais” を使用した第一人者だったと記されています。

ロンドンでは1665年以降から“すかっとした発泡性のある”ワインを飲むことがなかり流行っていました。この発泡性ワインに対する要求がイギリス宮廷におけるシャンパーニュ産のワインの流行と結びついた背景には、1662年に亡命してきたSt-Evremondサン・テヴルモン侯爵の大いなる努力がありました。彼は社交的でチャールズ二世に重用され、あっという間に上流階級の人々と親交を持ちました。 また旧友(かのシルリー侯爵やシャンパーニュ地方のドロン伯爵など)に頼み、当時のとびきりトップの3銘柄(アイ、オーヴィレール、アヴネイ)の樽詰めワインをロンドンへ送ってもらい、それらをロンドンでガラス瓶に詰め、コルクで栓をして紐でからげて泡が立つようにし、ロンドンの美食家/社交界に紹介しました。

一方、フランスでもまた17世紀中頃以降、Silleryシルリー侯爵によってヴェルサイユ宮殿にシャンパーニュが紹介され、“ニュールック”と見なされるや否やルイ15世(1710~1774年)の愛人であったMadam de Maillyマイイ夫人(1710~1751年)の支持を得、宮廷でもすぐに人気が上がったことから急速に成功を収めていきました。

このようにシャンパーニュが評判を博したことによって、発泡性ワインの市場の基盤が築かれ、それが現在の非常に大きな規模まで成長し、発展するようになったのです。

 

土壌 (Soil)

シャンパーニュ地方の土壌は地質学上、世界でもかなり特有なブドウ栽培地域です。6,900万年前、海に覆われていた北部フランスと南部英国は海水が干し上がり、素晴らしい白亜質の土壌を残しました。それに続き、イル・ド・フランスで二度にわたり大地震が発生したことにより、土壌の高さが持ち上げられ白亜質が破壊され、シャンパーニュ地方の斜面が形成されました。最後の地震はおおよそ1,200万年前です。

ここには主に二つの白亜質土壌のタイプが存在しています。

- Belemnite Quadrata(べレムナイト)丘陵

ジュラ紀及び白亜紀に栄えたイカに似た軟体動物の化石を含む土壌です。

- Micraster(ミクラステル)平地

白亜質後期のウニ類の化石を含む土壌です。

白亜質の下層土は水捌けに優れており、また水分を保つこともできるので、暑く乾燥した天候を和らげブドウの成長を助けてくれます。また太陽の熱を保持し、ブドウの樹にそれを運搬する役目も果たしています。白亜質の高いレベルの石灰分により、より酸の高いブドウ造りが可能になっています。表土は主として粘土、砂などです。

 

ブドウ品種 (Grape Varieties)

シャンパーニュ地方での主なブドウ品種は下記の3種類のみです。

- ピノ・ノワール (Pinot Noir)

主にモンターニュ・ド・ランス地区で多く栽培されており、ブレンドすることによりシャンパーニュの骨格をつくり深みと果実の重厚さを担います。

- ピノ・ムーニエ (Pinot Meunier)

主にヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区で栽培されており、頑丈で霜害に耐性があり収量も多いので生産者に重宝がられていますが、洗練さに欠け、寿命も長くない品種です。しかし、まろやかさと果実香味を与え、熟成が早い品種です。

- シャルドネ (Chardonnay)

主にコート・デ・ブラン地区で栽培されており、酸味とエレガントさを与え、また長い熟成に耐え、繊細さをも持ち合わせています。近年、その栽培は増加してきています。

 

栽培 (Viticulture)

ピノ・ノワールとシャルドネはシャブリ型剪定法、コルドン・ドゥ・ロワイヤ型剪定法、株仕立てのどちらかで仕立てられます。この方法のどちらにおいてもブドウの樹は針金に沿って低く整枝され、短梢剪定されます。 コルドン・ドゥ・ロワイヤ型剪定法では、短梢はすべて水平に長く伸びた腕枝(コルドン)上に配置されます。 シャブリ型剪定法は、主としてシャルドネ用で3~5本の熟枝の先端に短梢がみられる方法です。またグラン・クリュとプルミエ・クリュの畑では必ずシャブリ型剪定法もしくはコルドン・ドゥ・ロワイヤ型剪定法でなければなりません。栽培の間隔は列を最高1.5m間隔、ブドウの樹と樹の間隔を0.9~1.5mにして栽培密度を高くしています。

 

モンターニュ・ド・ランス地区 (Montagne de Reims)

モンターニュ・ド・ランスはかなり広くエペルネとランスの間に位置しています。9つのグラン・クリュの村が存在し、主にピノ・にワール種が栽培されています。ここは大きく分けると北部と南部モンターニュに分けることができ、北部はシルリー、プュイジュー、ボーモン・シュール・ヴェール、ヴェルズネー、マイイ、ヴェルズィーのグラン・クリュの村があり、ここで栽培されるブドウは一般的に南部と比較すると色が濃く、しっかりとしたボディのあるワインが造られると言われています。南部モンターニュにはルーヴォワ、ブジィ、アンボネーのグラン・クリュ畑があります。

 

ヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区  (Vallee de la Marne)

ヴァレ・ド・ラ・マルヌでは主にピノ・ムーにエ種が栽培されています。ピノ・ムーニエは発芽が遅く、早熟なため霜の影響を受けやすいこの地の畑ではより成功しています。またピノ・ノワールも多少栽培されており、アイ・シャンパーニュ(グラン・クリュ)やメリュル・シュール・アイ(プルミエ・クリュ)の村のものは格別で、南部モンターニュ地区にあるブジィやアンボネー村のものと同等であると言われています。2つのグラン・クリュ村があります:アイ・シャンパーニュ、トゥール・シュール・マルヌ

 

コート・デ・ブラン地区  (Cote des Blancs)

コート・デ・ブランではシャルドネ種が支配的に栽培されています。シャルドネから造られるワインは人気があり、繊細且つ、長い熟成に耐えることができると言われています。ここには6つのグラン・クリュの村があり、シュイイ、オイリー、クラマン、アヴィーズ、オジェ、メニル・シュール・オジェがあります。

 

オーブ地区  (Aube)

オーブはシャンパーニュ地方の南部で主要地域から南東90kmのところに位置しており、シャンパーニュのマルヌ地区のブドウ畑よりブルゴーニュのシャブリ地区に近いところに位置しています。第二次世界大戦ごろまではガメイ種がこの地では支配的に栽培されていましたが、廃止となり、今日ではピノ・ノワール種が多く栽培されています。ここにはグラン・クリュとプルミエ・クリュの村は存在しませんが、品質は確かで、ヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区のはずれに位置する区画のものより優れていると言われています。

 

コート・ド・セザンヌ地区  (Cotes de Sezanne)

コート・ド・セザンヌは急速に発展してきた地区でコート・デ・ブラン地区の南西およそ16kmのところに位置しており、主にシャルドネ種が栽培されています。ワインはコート・デ・ブラン地区のものと比較すると洗練さには多少欠けるものの、よりフルーティでエキゾチックなニュアンスがあります。ここにはグラン・クリュとプルミエ・クリュの村はありませんが、最近では伝統的なブレンドを好む生産者が増えてきたこともあり、ピノ・ノワールの栽培が増加してきています。

 

シャンパンのスタイル (Style of Champagne)

 

ノン・ヴィンテージ  (Non-Vintage)

収穫年の表示はなく、異なる区画やいくつかのヴィンテージをブレンドして造られ、各メゾンのスタイルを決定付ける重要なシャンパーニュです。毎年、一定の味を保つために“リザーブ・ワイン”がブレンドされ、これはブレンド用に保存された古めのワインのことで、通常、20%程度をブレンドしますが、メゾンによっては30~40%と高めに設定しているところもあります。また2~3年の熟成を経たものを使用するところもあれば、4~5年の熟成を経たものを使用するメゾンもあり、またそれをステンレスタンクで熟成させたフレッシュなものや樽で熟成させた深みのあるリザーブ・ワインがあるなど、各メゾンのスタイルによってさまざまです。法律で瓶詰め後、最低15ヶ月間以上の熟成が義務付けられています。

 

ヴィンテージ  (Vintage)

作柄のよい年に造られる収穫年表示を掲げたシャンパーニュで、毎年、生産量の80%までしかヴィンテージ・シャンパンを造ることができません。残りは将来的に使用するノン・ヴィンテージ用のリザーブ・ワインとして保存されます。法律で瓶詰め後、最低3年間以上の熟成が義務付けられており、それによりノン・ヴィンテージと比較すると澱との接触が長い分、繊細さ、複雑さに富み、ボリュームのある味わいに仕上がっています。

 

ブラン・ド・ブラン  (Blanc de Blancs)

“白から白”という意味の通り、白ブドウ品種のシャルドネのみから造られるシャンパンです。上品で繊細な味わいが特徴で、いろいろなスタイルのシャンパンの中でも長期熟成に向き、熟成に伴ない複雑さを増すと共に若いうちの高い酸が次第にまとまり、バランスの取れた味わいへと変化していきます。

 

ブラン・ド・ノアール  (Blanc de Noir)

“黒から白”という意味で、ブラン・ド・ブランとは逆に黒ブドウ品種のみ(ピノ・ノワール、ピノ・ムーニエ)から造られた白いシャンパンです。重厚感やふくらみがあり、飲みごたえのあるタイプです。

 

ロゼ・シャンパン  (Rose Champagne)

ピンク色のシャンパンで、生産方法は二つあります。 ひとつはマセラシオン(浸漬)により色を抽出する方法、もうひとつは白ワインと赤ワインをブレンドしてロゼワインを造る方法です。後者はEU圏内では禁止されていますが、シャンパーニュだけは例外的に認められています。美しい色合いのロゼはプレミアム性が高く、同じグレードのシャンパーニュよりも値段は少々高めです。

 

キュヴェ・プレステージ  (Cuvee Prestige)

スペシャル・キュヴェまたはデラックス・キュヴェなどとも言われ、その生産者の中で最高のトップ・キュヴェを使用して造られます。通常、多くはその生産者の持つグラン・クリュの畑からとれたブドウのみを使用し、通常より長い熟成を経てから出荷されます。メゾンの個性と品質を象徴したトップのアイテムです。

 

シャンパンのスタイル

 

Champagne Brut

Champagne Rosé